人心の乱れ、どう治めるか
先週の米大手銀行、シティグループの株価は
最安値から一週間で3割超反発した。
他大手銀行と同様、四半期決算が市場予想を大幅に上回り、
悪いながらも、最悪期は脱しつつあると評価されたようだ。
典型的な銀行株牽引の相場展開であった。
アジアでも、今週は主要銀行銘柄に買いムードが先行しよう。
特に中国関連は先週末まで懸念された
米大手住宅公社ファニーメイ等の債権焦付き懸念で
大幅に売られただけに、銀行関連を中心に反発力は高いであろう。
ポールソン米財務長官提案に対する議会での受け入れ具合が高ければ、
なお更であろう。
今月9日に記したように、原油価格にもようやく天井感が出始めた
株式市場はしばらく楽観的な見方が先行しよう。
ただ問題の核心は、人心が離れ始めたアジア諸国での
政府の今後の対応策のとり方次第ではないだろうか。
舵取りを誤れば、株価は再び下落する可能性すらあるように思う。
最大の問題はインフレ懸念の長期化だ。
穀物、食肉、石油化学製品、(特に夏場に向けた)電力など。
年後半に向け、今の物価上昇状態が解消されなければ、
庶民のストレスは益々積み上がるばかりで、
大変な事態になる可能性があるように思う。
「景気減退」という簡単な評価では終われない状況も想定すべきであろう。
庶民のストレスほど、扱いにくに政治課題は他にないからである。
10年前と比べ、アジア新興国の経済基礎条件は格段に改善されてきている。
経常収支は黒字化し、国家としての貯えも増やしてきた。
これからは「高成長街道をまっしぐら」という感で
見られてきたところも多かったのではないだろうか。
しかし実際は、微妙に状況が違ってきている。
第一波のインフレの高波では、補助金政策など、
アジア各国は既に健全化した財政をフル回転。原油高や米ドル安、
また米国景気の大幅減退への対応策においても、
これまで相当に政府資源を使ってきた。
優等生と称されてきた韓国がついに今期、
アジア危機以降11年ぶりの経常赤字の見通しになってしまったとのこと。
ベトナムの年率20%台の物価上昇率はすでに周知の通り。
足元の7%台でじり高推移している中国やタイはまだやさしい方かもしれない。
石油価格引上げを発表したインドネシアでは既に11%台、
そして中国に追いつけ追い越せと高度成長振興策をとり続けてきた
インドでさえも、今期は12%台に迫る上昇率が市場で予想されている。
庶民の忍耐力は既にぎりぎりのところまできているのかもしれない。
チベット騒乱や最近中国各地で報道されている暴動っぽい市民の動き。
韓国で見られた反政府デモ、インドネシアで多発している
賃上げストライキ等が何よりの証左であり、
何れもかつてアジアで頻繁に見られた現象でもある。
これまでの高度成長の実益を享受してきたのは
ほんの一部の人民だけであることを認識すべきであろう。
人心は今、離れ始めようとしているのではないだろうか。
印紙税引下げにより投資家を呼び戻そうとするような政策の次元ではないはずだ。
もっと根本的な処方箋が求められようとしている。
特にこれからは、高金利や自国通貨高による輸出鈍化が鮮明化し、
企業レベルでの収益が予想外に落ち込む可能性がある。
中国広東省の繊維業界に見られるように、業界全体の雇用不安が
どこからともなく、静かに蔓延り始めているとのこと。
庶民の不安、不満を回避する政策が今、一番求められているのではないだろうか。
最低賃金の引上げや雇用環境の安定化、地方レベルでの物価安定策など、
キーワードはいろいろあると思う。もっともっと「政府と庶民の対話」が
必要になってこよう。
(大原 平)