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2010年10月15日

VND切下げは単なる為替レート政策にあらず


VNDの切り下げは、「輸出促進」という目標を達成させるための
為替レート政策の一環、という単純なものではない。
ベトナム経済は、それ以外にも複雑な状況を抱えている。


為替レート対策に影響を与える5点

(1)ベトナム経済は現在、発展段階にあり、輸入需要が大きい。
統計総局によると、輸入総額の90%が機材、生産用資材である。
そのため、輸入額の増減は経済成長の周期に大きく関連しており、
為替レートとはあまり関連していない、といえる。

(2)ベトナム輸出品の構造について、
輸出商品の比重の70%を輸入資材が占めている。
ベトナム輸出商品の中では、
原油、縫製、水産物、米等が大きな比重(40%近く)を占めている。
しかし、これら輸出品の価値は、
為替レートというより、生産力と国際市場での競争力に大きく付随する。
そのため、今後さらにVNDの価値が下がったとしても、
これらの輸出品の競争力が高くならない可能性もある。

この競争力というのも、様々な要素に影響を受けている。
他にも、ベトナムで現在輸入されている品目の
代替品の生産力がまだ追いついていない、という課題もある。

VNDが上昇した場合、幾つかの分野が影響を受けることになるが、
その規模は大きくはない、と考えられる。
農林水産物の輸出企業は、
加工品・電子部品組立企業等より有利な影響を受ける事になる。
石油採掘企業はVND上昇により、不利な影響を受けることになるものの、
世界的に原油が上昇するため、
VND上昇の影響は少ないと思われる。

(3)ベトナムインフレは10%以下で抑制されていたが、
その安定度は低い。
その他、長年国家予算支出超過が続いたこともあり、
それを補填するため、外国から借金している状況にある。

(4)ベトナム経済は市場自由化の段階で、
「USD化」されていると言われていた(USD化は徐々に縮小傾向)。
そのため、金融政策と為替レート政策を慎重に実施しなければ、
マクロ経済を不安定にする影響は大きい。

(5)2007年よりベトナムはWTOを公式に加盟、
それ以来、「実施不可能の3課題」に直面することとなった。
国家銀行は、外国投資資金を大量導入するにあたり、
為替レート安定のため、外貨(USD)を購入、インフレに圧力をかけた。
外貨法令の規定に基づき外貨導入資金の管理は、
清算取引を自由化させたが、
完全に自由化されなかった資金取引は、ある程度緩和された。

この理論によると、当座預金口座により
インフレと為替レートを同時に安定させることはできない。
インフレ上昇の圧力軽減のため、金利を引き上げるとともに、
外国からの資金の調達能力を高める。
そのために、為替レートが また上昇することになるのだが、
そうすると、中央銀行のVND切下げ目標は達成が難しくなる。
この政策が、現在の環境に大きな影響を与えている。
ベトナムの様な新興市場、
財政・金融市場の発達が未熟な市場にとって
「実施不可能の3課題」は深刻な問題である。

為替レートの変動枠設定が有効となるのは

国家銀行は現在の状況について、
マクロ経済と金融市場を安定させるため、
為替レートが重要な役割を持つと強調している。

変動枠を設定することで、為替レートをコントロールすることは、
マクロ経済を安定させることと
安定した経済成長を促進させることにとって、
有効な方法となる。

しかし長期的に見れば、
経済が以下の特定の状況になった場合、

1.国家資金力が充分になった場合、
2.金融市場が充分に発展して安定した運営がされている場合、
3.USD化状況が管理されている場合、
4.インフレが安定して抑制されている場合、
5.輸出入の構造が基本的に変化した場合、
6.輸出製品の中で、付加価値の高いものの割合が増し、
 粗悪品の割合が減少した場合、
7.生産用資材が主に国内で調達できるようになった場合

為替レートは、貿易収支の状況を改善させ、
輸出競争力を高めることとなり、
清算バランスシートを始めとした、
経済成長の安定を確保するものとなるだろう。



証券投資紙  2010年10月15日

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